映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ・劇場プログラム ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

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映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ・劇場プログラム

 
 
昨日から渋谷ユーロスペースなどで公開がはじまった『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』、その劇場用プログラムの出来が感動的だ。同プログラムに原稿を寄せている当方としても、これほどうれしいことはない。
 
ときどき編集者にとっての編集の基本はすべて劇場プログラムのそれに集約されているのではないかとおもうことがある。編集によって語りだす対象が当該映画に厳格にさだめられたうえで、スチルや現場スナップなどヴィジュアル要素が豊富(つまりデザイン化の選択が多様)、「イントロダクション」「ストーリー」「撮影エピソード」「評論」「キャスト、スタッフインタヴュー」など定番の要素をくりこみながら、それらの深浅、拡張力の有無、現在性考察の濃淡、他の映画や文化への言及をも付帯させるか否かで、無限の偏差を形成することもできる。
 
もちろん書籍ではないのだから、頁数(台数)には一定の限度があり、このなかで台割が、シンプルな全体の時間性を組織する。このシンプルさこそ肝要で、それゆえに編集の手つきが、いわば裸形の状態で手にとる者につたわってくるのだ。プログラムと読者の関係は握手しているにちかい。もちろんプログラムは、映画を観たあとに購入者の手のなかでひらかれるのだから、対象にまつわる了解性もおおきいのだが、記憶すべき勘所が確実に言及されているかどうかなど、評価の基準が繊細にならざるをえない。やっつけ仕事などもってのほかで、いわゆる「映画愛」がこぼれにじんでいるかどうかは、情報の展覧、精度、展開の順番などから肉感的に計測されることになる。編集者の力量が着実につかめるのだ。さきに「編集の基本」としるしたゆえんだ。
 
ぼくはキネマ旬報社の編集者時代に、映画書の書評欄を担当することがおおかったが、映画書たろうとする絶望的な野心をもった劇場プログラムにたいしては、熱烈な書評をもって迎えた。それでもそれは書籍ではない。むしろ書籍手前の「中間性」「はかなさ」こそを、劇場プログラムから掬すべきだろう。優位性は、書籍よりもフェティッシュがつよく、時間が経過すればそれが、書棚のなかで「人生の秘密の符牒」ともなる点だ。
 
『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』劇場プログラムの編集上の実働者は業界の秘密なのでここに公言しないが、プロデューサーにしてリトルモアの社長・孫家邦の意向を、愛と具体的な編集技術によって拡大した点は着実に感覚される。キャストは端役にいたるまで、さらには多様なスタッフも綿密にプロフィールがしるされ、しかもキャストにはすべて、あなたにとって東京は最高密度の何色か、という質問によって、発言の機会さえあたえられている。綜合的な共同作業によるしかない映画(創作)の真理に、劇場プログラムの方針がうつくしく寄り添っているのだった。
 
ふんだんなスチル写真を、プログラムの冒頭と中間と掉尾に長い頁数にわたってちりばめたので、全体は一種の「アルバム体」をつくりあげている。それでまず頁数が多い。ところが寄稿者やインタヴューの切り口も多彩で、それでも頁数がかさむ。プログラムが書籍的な量感をもとうとして、写真とコンテンツをまず吸引しながら、そこへさらにヴィジュアルとは界面のことなる「文字」をも置かなければならない。どうなるか。
 
編集者は過激な選択をした。もともとイントロダクション以下の本文の文字もちいさいのだが、そこにさらに可読限度を超えて小さい文字を、プロフィール、説明などに組み込んだのだった。虫眼鏡をつかわなければプログラムの細部が読めない。昨日実際にこのプログラムがポストに届いて、さっそくぼくは、老眼もあるけど、虫眼鏡をつかって「全部」を読んだ。このプログラムの「構え」が、細部を読まないまま放置することを許さない。つまりは意気込みにうごかされたのだ。しかもスチルのアルバム構成になっていない本文は藍と橙の二色刷で、その二色がかぶって迷彩化、判読のしにくい部分さえあったから、なおさら虫眼鏡が重宝された。原作である最果タヒの詩集の「混沌」がここでは宇宙化され凝縮されている。とりわけヴィジュアル面では、ヒロインの新進女優・石橋静河の静謐で真摯な表情(切々とつたわってくる)、さらには東京風景の図案化が見事だった。くわえて、最果タヒの詩篇を分解する字組も。詩集編集者は参考にすべきかもしれない。
 
この文章は、劇場プログラムを編集した者へのオマージュだから、映画そのものへの言及は、別の機会とする。入っている文字情報のみ、目次から最後に列記しておこう。それだけでも劇場での購入が必須、とわかるはずだ。
 
最果タヒの詩
・P9 彫刻刀の詩
・P61 青色の詩
 
コラム
・P16 角田光代「信じたくて、信じられなくて、でも。」
・P22 宇田川幸洋「鎧う、男と女の出会い」
・P28 いとうせいこう「“声”について」
・P33 高橋源一郎「奇跡のような2時間」
・P40 岸政彦「波と振動」
・P45 水野しず「“青い空”」
・P50 阿部嘉昭「現代詩のゆくえ」
 
インタビュー
・P18 美香役・石橋静河
・P20 慎二役・池松壮輔
・P24 監督・脚本・石井裕也
・P46 原作・最果タヒ
・P54 撮影・鎌狩洋一
・P56 エンディング曲・The Mirraz畠山承平
 
クリエイターのいまを探る
・P26 石井裕也のいま
・P48 最果タヒのいま
 
・P14 解説
・P15 物語
・P34 キャストプロフィール
・P36 イン・ザ・詩ティ
・P52 プロダクション・ノート
・P55 シーンの裏側
・P57 スタッフプロフィール
 
 

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2017年05月14日 日記 トラックバック(0) コメント(0)












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