酒仙
【酒仙】
ゆびさきがとおく酒気をおびていた
きっと愛する者のはかない蜜壺や
にげようとする羽毛へとふれたのだ
ゆびさきが手から離れようとしていて
そうもくのきもちがわかるともおもった
酔生があればいずれ夢死へいたるが
うずくまるかまえなどその型しめしで
まひるまにろうそくさながらともし
すきとおるほのおがつちをあかりさすと
かたちのいくらかかけたぼうたんで
よのなかがかぎりなくうたい和す
善さがとけあってたったひとつなのに
つみとがのにぎわうのはなんのゆえ
このところ花の詩集がいくつもまいこみ
かおりが抽象におもくまつわりついて
たたずむかたちはみなくみしかれた
さわったまえがさわらぬいまをしのぎ
ときのうつりのあからんでゆくまに
はじめに酔芙蓉にふれたあさひの
ひかりのわずかなとがりまでしのんだ
十全が七欠をさかいなくおおえば
球体にななつあなをあけ死ぬすじが
こんとんからとおざかりはじめる
酔うとはゆるやかに生じた自乗により
さきのゆかないながめにひだのあること
なおかつそれのゆらめきやまぬこと
おくがたたまれかつはひらくのだから
おのずからかたちがあくがれいでて
かくしどころさえかおにみえる往生は
眼のなかに眼のあるおのれをさだめ
しかもなかのものが星めいてぼやけた
あるものはなかったとはいえないと
のぞみをたくすいまにものぞみがあり
ときのすきまにかげなすめしあは
めしいるたりなさがなつっこい
ねばりはめしつぶのようなもので
そうおもうと酔いも良いにくつがえり
愛するからだはそれでまき紙になり
かぎりなく貼付をかざられては
さすゆびさきをとおくからもとめ
まわるそらの端におのれをまいあげた