手
【手】
そういえば五感のうち触覚だけが
あまりかんがえられていない
なにをさわればくるしくなるか
それらをひそかにしることで
手のなかにあるものへゆきつく
そうしたうごきのふかみがときに
てのひらさえとばしているのに
だれもがなでるもののまえで
ぶんりなどしないとしんじている
すでに花期がおわり穂となった
ふたつみつのゆれにふれると
風とそれ以外もつたわってくる
あっただろうむらさきがきえ
繊毛からのくすぐりをつうじて
ゆびはおろかたましいまでも
繊毛となってしまうのであれば
もともとはさわられることに
ひとみながせっしているだけで
あふれている世界苦の覆いが
あるかなきかのすきまをつくり
さだめなさへとひろがってしまう
後悔のぼやけにやられるのだ
なでることはよくぼうではない
場所をたしかめようとして
場所ではない脈動にふとふれて
いのちのうごきでなければ
回収できないおそろしいズレで
世の稠密がみだれていると
みずからおもうだけかもしれない
あるいているうちにふれる
はなびらのおもさやしめりも
ひとのものとまちがえはしない
おもかげならどこにでもあり
まなこがそれらにみだされるが
なでることにおもかげはなく
おもかげそのものにもさわれない
てのひらにあながあくほか
ふれるものにも引き算がなされ
つながりとなるあまりがくずれる
にんげんとそうもくのあいだの
受粉ではなく受苦がさわりにあり
かすかな粥のようなかなしみを
ぬりあるきつつこんぱいしている