無灯火
【無灯火】
袖を風にまかせて
自ら悪運を祓ってゆく
真夜中の無灯火自転車だ
地球の自転と等速、
数条の影になって
町の自分という位置をも
この擦過で傷つけてゆく
紫陽花はもう灯りを落とし
以後を沈んでゆくだろう
伸びるものを数かず算えるが
まわるものが見つからない
自転車、車輪なくして
僅かな空中を音なく滑る
深大寺公園に忍び込んだんだ
胸に交差する骨の梁から
地球儀の基礎がつくられる
地球儀師は中心に心臓を潜ませ
それを銅製、粽の俤にした
外形をもたない球ともなって
朝までリボンの道を乗っている
ペダルを踏めば美味しさも軋んだ