旅の呼吸
【旅の呼吸】
いつもおくれて車内にあらわれた
とびらがとうにしまってからだった
にくたいがそんなだとしるものが
あらわれにかげをかかげたぶんだけ
とびらにもうまく寄りそうことができ
おたるへむかう海が頬でもあふれた
ひかるかげんでかたほうとなって
ゆくさきのほかなにもかんがえないと
かんがえない身がいわば中途化して
通過してゆくものへとけていった
だれかれの中途までひかりみちるのが
はめごろしにまもられた車輛だから
せかいは筒が筒をぬけるようすをして
めいもくするだけで栓がはずれる
こまかなあわがあたまをつつむなら
ぞんがい王冠がひとの世におおい
のこされた身ひとつがくうかんでは
あなにみえてしまうおわりだから
とりにがしたひとをはなれたままに
あつくあわれみつくそうともおもった
こせつでさみしい聖画のことわりだ
ついにたどりつくほまれとかかわれず
ゆききだけでひと世をおえたのなら
なにも足し算などなかったゆくたてが
どれほどつつましくみえるだろうか
どころかゆききにさえわずかにおくれ
ゆききそのものをなかせてしまった
がっこうがえりのふたえのみちを
ひとさながらおもいだしているのだ
たいせつなものとはバスをのりついだ
窓外をさむいふるびらがながれたが
ちまちまくりかえしたのりつぎが
たびのきれいな関節だったこともある
いまではいきるための関節をなくし
はこばれてゆくほうがかなめとなって
かばねめき、こころのなかが水漬く
きえたひとのかわりにみずがあり
おたる運河はそのさだめにすぎない
往相ではじまったもののすべてに
あらかじめ還相のあるだろうことを
おくれるにくたいがさぐりあて
ふくらんだりちぢんだりしていた