鬼没
【鬼没】
喘鳴王の最期はやはり
喘鳴に終わった
気息を日没に病んで
己れのなかをただ歩いた
悪い冗談だ、身中が巷
敷き道の風合は好んだ
喫煙と肺が癒合する
肺は縮み肋の破れ袋
犬が紫になる日暮れは
ゆっくりと煙を吐いて
空の梯子のからくりを
己れに向けて挽回する
老いでは薄い楼閣が
こうして身中に建って
夏蝶を白狂のため舞わせた
着物の裂ける音となり沈む
あまたの葉裏のような王
減算への減算を仕掛ける
揺らぐ半袖が飛鳥だという
飛翔物質を野に数えれば
一日の沈降が鳥より迅い
何事も身を抜ければよく
運命も正面からと定めて
神出なくただ鬼没した
ないのだろう、もう余滴も
★
ヘビースモーカー詩篇をアップしたついでに。
●田中宏輔さんのmixi日記に最近書き込んだ短歌
わたくしがひとつの場所なら陽光にこの骨の梁、微塵に砕けよ
あかるくて禾原にいま南風(はえ)が充ち地球をはふる往古を葬る
葵公園にて蒼愛も発展す人間犬と犬人間と
少年型サイボーグらが極光を見て凍結後砕いたまなざし
●
立教の前期授業は昨日でおしまい。
「音楽実践演習」「映画講義」「入門演習」それぞれに収獲があった。
今日は解放感に導かれ朝から長電話と詩書読み。
やがて峯澤典子さんに送っていただいた『水版画』を読了した。
無駄を刈られて綺麗になった言葉が隙間ある空間をつくり
散文性に傾斜しそうなところで詩に反転する。
この呼吸の場所で、彼女の躯がいつも実感される。
生も死も花も風も水も記憶も同一になる場所として
彼女の肉体(つまり言葉)があるのが明白で
そういう詩法を眩しくおもう。
自分もやってみようとおもったら
なぜか上の「鬼没」となったのだった。