屍人荘の殺人
本日の朝日新聞読書欄「売れてる本」コーナーに、ぼくの書いた今村昌弘『屍人荘の殺人』の紹介=書評が載っています。本格ミステリの新人にあたえられる鮎川哲也賞を受けたほか、その後も「このミステリーがすごい!」(宝島社)、「週刊文春ベスト10」(文藝春秋)、「本格ミステリベスト10」(原書房)の三冠を獲得した「いわくつき」の傑作。さきごろの年末年始の読書用にとさらに売れ行きをのばした由だ。
ご存知のようにこの本、ネタバレ厳禁物件だ。本格ミステリの枠組を、ある超常現象が包囲するのだが、その現象をたとえ×××と伏字にしても驚愕を重んじる読者にはネタバレを結果するという、神経質で物騒な対象なのだった。いわば周辺を付帯的に説明するだけで、紹介では読書意欲を掻き立てなければならない。しかもネット上にはすでに、得意満面な書評・感想も陸続していて、それらとの内容重複も避けなければならない…。書きにくいといったら、なんの。
ま、それらの難関をクリアして、ミステリにつよいとはいえないぼくが、記事を書いた。女房いわく、よくこれだけ縛りのある条件で、わかりやすく、そそる原稿を仕上げたと。朝日の文化部周辺も、書評を読むと、現物を読みたくてたまらなくなると。自分としては低回飛行をしいられたつもりだったが、うれしい反応が囲んだ。ぜひ読まれたし。
原稿は数字「2」をつきつけて、原初的なテマティスム構造批評を展開している。最近こういう文章がなかったから、朝日のひとたちにも目新しかったのか。字数制限もあって書けなかったけど、「2」の最大要素は、今村昌弘の文章が、可読性と衒学性との「2」を融合している点だろう。既存映画ジャンル論との連関もあって、それを担当する人物「重光充」の存在も得難いが、ほんとうは作者自身がメタレベルで作品の位置を「説明」するから、この手のものに慣れない読者も読解誘導されてしまう点が最も売れ行きに貢献しているはずだ。
もうひとつ。昨日の北海道新聞夕刊「サブカルの海」では瀬々敬久監督の話題につき、三題噺で書いた。以前にここで書いた『7年越しの花嫁』『最低。』『ヘヴンズストーリー』についての論考を「綜合」したもの。内容が気になるひとは、それらを(再)参照してください。