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森泉岳土『報いは報い、罰は罰』 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

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森泉岳土『報いは報い、罰は罰』

 
 
書いた詩を、いかに速度をおとして読んでもらうか、日ごろあれこれと腐心していると、やはり森泉岳土〔たけひと〕のマンガ、その方法論にうたれてしまう。宏壮な洋館、その空間性そのものを恐怖の源泉とする彼のゴシックホラー『報いは報い、罰は罰』もまた、いつもどおりの森泉の流儀で、割り箸か爪楊枝の先に墨汁をつけ、その滲みによって、線が微細にゆれてえがかれる。硬いのにやわらかい物質的反撥。舞台となる邸内の建築調度のうっとりするほどの美的細部性、語り口の飛躍、ネームの間歇がまずジョナサン・クレイリー的な「注意」を勃発させる。それだけではない。スパッタリングなのか、グレーの諧調もこまかく差異をもうけられ、濃くなるほどに稠密性・粘着性を増し、ついには真闇に至る。眼はそれらの重さへ釘付けになりながら、率先したマゾヒズムによってそこから「ゆっくり」恐怖をあじわいつくそうとする――眼が画をしぼりとろうとする。いがらしみきおの圧倒的ホラー『Sink』やJホラー映画の秀作群にもあった事態だが、森泉『報いは報い、罰は罰』では「わずかに見えて」「意味を視認できないもの」がコマ割上の空間的了解を破壊、さらに暗さへと連携してゆく破調が画期的だ。一種の混乱だが、この混乱によっても画面の解読が「延びる」。ゆっくりとした解読へのみちびきがこれほど完璧な天才はいないだろう。物語ぜんたいは伝統的なクローズドサークル+ハウンテッドハウスものに分類できるが、ヒロインに眠りの反復をしい叙述の不安定化をみちびいたこと、さらには最も怖いのが子どもとおもわせたコクトー=三島的逆転にすばらしい新味がある。
 
 

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2018年03月02日 日記 トラックバック(0) コメント(0)












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