忘却について
【忘却について】
忘れじよ透写画面に梁なした侠情の色、あふるる異常を
盲目の日は光ふるそのなかを往年逝きし犬の影狩る
観念の天使がよぎりふと俗なこの水髭も蒼く火傷す
ピタゴラスの徒は星間を埋めむとし数みちびくも零に至らず
嗅覚をもつ指先をうろに挿しひと晩妻と死後を話した
別段の嘆くに当る今もなく詩友と訣れしのちのひまはり
夏は鞄に真水を詰めて巷ゆくさや走る声「割れるなら今」
攪乱の因がもとより躯にあればあを星まはる音も楽とす
夏などはヴェクサシオンに肖たるかも限定反復ただ嗤ふべし
年どしに胸乳の蒼く暈けしかば忘れし季節なべて秋いろ