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雑感2018.08.12 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

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雑感2018.08.12

 
 
【雑感2018.08.12】
 
・蛸がその足の何本までを食べても蛸といわれるかが認識の脅威だろう。じっさい俳句は「自分の足を食べていて」、その状態に詩は憧れなければならない。結果、俳句が現今の詩に先んじて獲得したものは――詩がまるはだかの骨格で組織されてもいいとだけあかしする、構造の無名性だ。このことによって俳句では語の使用価値がたかい。
 
・「片言」を切れ字によって脱文法的に構造化した俳句にたいし、列挙をさけぶ喧噪から逃れた段階の詩は、絶望的な道具、「構文」を用いるしかない。付加が約束されている構文に減殺をもちこもうとして、詩はあることに気づく。書きながら遅滞を、迂路を、変容を、形容節や接続詞の抹殺を組み入れると、理路がうしなわれ、自己読解に想像が介入せざるをえなくなるが、このとき文脈上の語と語が、なぜ遠さのままに「近く」なるのかと。詩の定位は時空間上の惑乱と区別がならないのか。これはアウラの問題でもある。たぶん喩(直喩/暗喩)は通常構文の文彩概念として適応され、通常構文の詩性を顕揚するだけで、詩では「減喩」をいうしかない――最後の本質としては。詩と、一般にいわれる「詩らしさ」とは絶対的にことなり、その判別に有効なのが単純だが短さだったりする。
 
・みじかいものは頻度を要求する。ところが俳句作者は詩型の円満自足に守られていて、みじかいものを俳句以外でたえず志向する者の、書き出しと書き終わりの頻繁さ、その充実には恬淡だ。現実体験をしずかに破砕して「部分」として提出する。そうした「部分」の到来の、点滅リズムのほうに、間-詩篇的な換喩の実体がある。私は換喩と日記的部分性の親和をかつて強調したはずだ。
 
・私が点火したあとの換喩論議では、換喩/暗喩の二分が「総体」へは無効だと示唆されている。見逃されているのは、換喩が内在則としてあり、しかもそれが不足と手をむすぶときに減喩成立の潜勢があること、したがって「途中=中途」は逃れゆくものとして真の把握がならないこと、さらには――隣接域への横ずれによって渦中が自体性をうしなうことに自体性が賭けられているという、詩の逆説的な、あるいはエロティックな組成上の問題だろう。実例は数多くある。実作をたえず振り返るべきだ。
 
・朗誦の伝承性が壊滅してから、詩は自家朗読を期待されるようになり、これが紙上を読んで詩を実感した一定の詩作者(それは歴史的存在だ)に脅威をもたらしている。このときに朗誦に馴染む叙法上の恥ずかしさが再認されたのではないか。繋辞をもちいる単純な暗喩構文、頓呼法、一定の約物からにじみだす抒情記号性、過度な反復、過度な構造性、ねばつく口語語尾、あまえ、演劇的なサタイア――これらが一旦の遺物となって、それで「書けない」を書けないままに「書いてしまった」へ反転するための留意項目が変わった。おそらくそこに散文性はふくまれないだろう。内在的な破壊とは無縁だからだ。もちろん例外は多々あるが。
 
・作品与件上、「足りていない」はひとつの驚異だが、「それでもなお自足している」はさらなる衝撃だろう。秀句はむろんそれを実現している。このときのことをおもいだすと、なにもない語間に眼を凝らし、たとえば助詞機能にゲシュタルト崩壊がまつわった失調がうかびあがってくる。書かれている明示以外に何もなく、明示が自己循環しかもたらさないこと(排中律)、そこに精密な読みによる解釈の面倒な多義性をむすびつけようとすると、(融即の)言語哲学まで出来してしまう。詩学は害されているのか、あるいは害をもふくむことがすでに現在の詩学なのか。
 
・政治意識とともに暗喩は、書き手の優位性、あるいは誤謬の点滅子で、あらゆる書き物に遍在している。それは渦中の動態をじつは鈍らせる。四足動物のおもたい尻尾にすぎず、食べるためのおのれの足ではないためだ。いっぽう換喩は書き手の気散じ、さらには無力の徴候として、書かれるもののうごきのなかをかすめつつ、さらにみずからの動因ともなる。だから換喩は実際には非実態にちかい操作子で、その時空の横ずれ的な拡張にのみ、救済可能性が喚起される。
 
・ところで徴候的に書くとはなにか。詩においては、書き手のよわさを読者に分有してもらうことだろう(そのような詩を愛してきた)。自己記号も署名性もそこできえる。ところが消しすぎると減喩というさらなる非実態が、発語の自殺行為として機能しだす。これは優位性とは無縁だが、凄みには馴染むものだ。言語への畏怖といってもいい。換喩と減喩とを潜勢的な「対」ととらえない、暗喩/換喩二元論には、もう興味がなくなってしまった。優位性とよわさは生産的な対をなさないだろう。
 
 

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2018年08月12日 日記 トラックバック(0) コメント(0)












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