流され星
【流され星】
いずれ目鼻が消える、
紙人形のような端正さなら。
恋とはそんなものだし
下流から上流に遡れば
川も淋しさで分岐しているように
見えるだけだ、ただ見えるだけ
流され星 「流され蛍」
あくがれいづるものによる空
お化け煙突の見物場所を人は探すが
見ようとすることが
すでに流されることだとは知らない
人世はゆっくりと水になる、閼伽みたいに
ユダ温泉を起点に今度の旅(車内多し)。
誕生日を迎え中年の終りの日付にもなった
美祢線に乗り、台風を精一杯逃れ
怖ろしい厚狭川の濁流を見下ろしては
古ぼけた紙に映る字をまたも購ってしまう
中也、西脇、泉谷明。
水面に咲く旧い目鼻流れる、
《あれはとほいい処にあるのだけれど》
(ああずっと「そこ」に佇っていたんだね)
でも僕らはもう萩で荻だったから
真下から見上げた花火、潤んで大きかった
(潤むものは大きく、大きいものは潤む
間近とは海峡で噛みあう下関と門司港
西班牙と葡萄牙、ふたつの大らかな牙のように。
女房の髪も汗に濡れながら風に舞っていたし。
それで憶いだす、どこへ行っても
味噌汁の具が遥かな川海苔だったと。
来迎、いつかはわれわれの稚魚時代を)