輪王
【輪王】
乙二号建築では
(火災警報器の誤作動もなく)
焙られきって一日中を除外された
公園の鉄棒群が 見下ろせただけだ
それらをつなぎ白じらとした
夏状の亜空間ができた、としても
何事も空白はつくりかえるな
胤のない砂だけがそこを伏していい
密議めくことだ、《肌を鏡に》。
材料にはただ水、「水の用意」
歩くことで生じた君の亀裂を
シャワー室でしずかに均し
再び入った部屋の天井からは
輪王の架空をおどろに垂らして
鏡面が熟すのをゆっくりと待つ
女の、私の、庭が、縁どられ映ったよ
百日の紅や、ましらの滑り。
物語る夏は退屈に退屈を接がれ
一人連詩も眠るように薄まり
入院の具体報ではあったけど
こんなバカみたいに字が不足したメールで
最後なんて嫌に決まっている
(「私の犬」を知るひとだから)
俄かに「わおう」。夕方の一斉。
吠え声が坂になって
凹んでゆく闇へのなだらかな傾斜では
サカりと離[さ]かりが結ぶ
この中心、しかし
「独楽はその中心だけが回っていない、
数学的にいえば」