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辞書開き即吟、ほ-を ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

辞書開き即吟、ほ-をのページです。

辞書開き即吟、ほ-を

 
本土佐といふべきものや春小波



枡呑に魚なるここち溯上川



見せ衣に別季節あり地獄佳し



愛しあふ朝のなべてや麦日和



眼上の目薬を見る春近し



木匠の木の手うながし棒となる



薬籠の蓋をとるごと性愛す



行符もち春のみの春往きしのみ



逃散のありどころかな宵明星



春雷の来謁つづき浄くなる



六徳の何か一徳闕けてをり



類音を霊とする日の詩三昧



黎民に黎明はある黒葡萄



胡坐して身の陋狭を愉しまん



矮躯には梨のたかさも麗しゑ



黄熱しきのふの滝もをみなかな







九牛の九以てする一足らず





例によっての辞書開き即吟。
うち「ほ」「ま」「め」は
「なにぬねの?」近藤弘文コミュに発表した。

辞書開き即吟は
どういうものかジジむさくなる。
俳味を感じる言葉が眼につくからだろう。
コツを以前、三村京子に訊かれた。
あまり偉そうな稀用語を拾うと
語彙自慢になるので
そこを注意すれば、といった。

ラストの「九牛」だけ、
こないだ風呂で詠んだ一句を加えた。
以前にも類句があるのだが。



詩をアップして、のち俳句もアップ。
べつだん閑というわけでもない。
今日はベランダの水漏れ工事に
職人さんたちが入っていて、
なんとなく通常の仕事をする
気運とならなかったためだ。

とはいえ、そろそろ立教三授業の採点に入らなければ。
しかしそれをせずに、ドゥルーズのあとは
ずっと古本サイトで安価購入した
『安西冬衛全集』をこのところ読んでいた。
第四巻まで。

安西冬衛にはこれまで
新潮社の「日本詩人全集27」で接していた。
村野四郎、北川冬彦とカプリングのやつ。
しかしこれでは
代表詩集『軍艦茉莉』も『座せる闘牛士』も抄録で、
心許なかった。
その不充足感が一気に払われた。
『軍艦茉莉』は全集第一巻に全篇収録、
『座せる闘牛士』は第二巻に全篇収録されている。

安西冬衛は以前の日記にもしるしたように
満州在の混合型モダニストとして出発した。
地図狂(とりわけ満州地名が集中する)にして
ミリタリーおたくという個性だった。

蒼古とした漢語を使用するが
形象性を追求しているので
近代詩とは径庭がある。
この地図狂の資質が戦後、西班牙に飛び火して、
僕の大好きな詩集『座せる闘牛士』も成立する。

松本秀文くんが悦びそうな
美学的並列性によって
見事に緊迫した詩空間をつくる。
成功した詩篇にはさすがにうっとりとしてしまう。



全集第三巻・第四巻が「未刊詩篇1、2」。
これらを容れると冬衛の生涯詩篇制作数は
西脇にも劣らないとおもうのだが、
別に出ている『全詩集』が全一巻に収まっているのは
いったいどうしたわけだろう。

第三巻は衝撃的だ。
彼の戦争詩篇が網羅されているため。
モダニストが戦争詩に移行した好例で、
瀬尾育生『戦争詩論』の着想は
『安西冬衛全集』を追うことで生じたのではないか。
じっさい瀬尾さんの本では
冬衛に大量の紙数が割かれている。

この巻に博覧強記の連作、
「死語発掘人の手記」も収録されていて、
これがモダニズム研究の必携文献。
戦後に書かれたものだが、
箴言とバロック文の中間的文章で、
断章リズムには詩が着実に現れる。

第四巻もある意味、衝撃だ。
じつは安西冬衛は『座せる闘牛士』のあと
詩集を公刊せずに、
昭和四十年まで生きて、
テーマを決められた依頼詩篇を
旺盛に書きつづけた。

詩集が統一性をみずに、
まとめられなかったのだとおもう。
大阪市を礼讃する詩篇など
首を傾げるようなものも書いている。

しかもそれは、戦前の戦争詩執筆と
まったく同じ構造の反復だった。
モダニストのモダニズムが「風俗」にすぎず、
だから詩魂も風化された、というわけだ。
それで戦後の未刊詩篇も
現在の新聞詩と同様の無残さをもつものが多い。
語感抜群なのだけど。

西脇との差とは何だろう。
西脇だって新聞詩も書いたが、
何か長篇詩への意欲が強靭で、
詩世界全体が構成的だったといえる。

いっぽうの冬衛は詩篇内部の構成のみに満足して
外延性をもたなかった。

もうひとつ、西脇は賢明にも戦時中、
戦争詩の作成から逃げおおせた。
『Ambarvalia』からずっと過ぎて詩作もなかったので
もう世間的に詩人とは
みなされていなかったのだろう。
それが幸運だった。

安西冬衛はたぶん戦争詩を量産したことに
戦後、魂の傷を負っている。
彼の対応策は独特だった。
かつての依頼原稿への失敗を
新しい依頼原稿の失敗で重ねようとしたのだ。
自ら痛ましさを招く自傷性をそこにみる。

その精神性って少し現在の詩人にも似ているなあ。。。
 

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2009年01月28日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)












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