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分類 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

分類のページです。

分類


【分類】


円窓に頭部を截られるやうにして俺は浮いてゐた 分類として



一身にしてなほ分類の俺だから貰つた札(ふだ)で泣くこともある。



舌下だらう、飢のはじめも。熱誠書の、海と轟く言葉のなかでは。



冷愛の成就に向かふ道すがら、蕃人の羅に見えた太陰。



舌のかず殖やさうと嘘を重ねきた汝が口のミルフィーユ型美(は)し



眼に積もるマロン花粉の黄なるゆゑ《執事の姿で扉を探した》



眼が醒めた、願望世界は切つ先のかたちが喜色らしいけれども。



――てのひらにみづうみつくる愛にして数歩で消える水もかがやく



足もとの星拾はむと撓む汝の――尻間にとほく別星のみゆ。



重力は権力に似る、野遊びで星斑の馬も五頭潰した。




昨日の日記は、短歌をしるしたのち
同人誌「町」に載った早稲田生・瀬戸夏子の巻頭詩篇を讃えた。
つづきがまだある。
「町」のその後を読み、
この瀬戸夏子の才能にさらに強打されたのだった。

その前に前回の「早稲田短歌」の紹介法に倣い、
今回も若い同人たちの素晴しい歌を個別列挙してゆこう。

○ 土岐友浩
ライラック思い描けばえがくほどさようならこの手を離れゆく

ため息を眺めていたら指差したゆびが消えたら春の花々


○ 服部真理子
青銅の都市があるのだ そこへ向け拭いてはならぬレンズがあるのだ

僕たちは舟ではないが光射すスープ店に皆スープを持って

ガラス瓶砕けた朝にふさわしくそれは調律を終えたピアノだ

世界でいちばん寒い惑星を決めて最後の乳歯抜け落つ

少しずつ角度違えて立っている三博士もう春が来ている


○ 平岡直子
刺抜きを拾い上げたい秋の野で触れればそれはみんな朝露

縦横に行き交う肘がひかるとき駅をひとつの船と思えり


○ 望月裕二郎
ひたいから嘘でてますよ毛穴から(べらんめえ)ほら江戸でてますよ

ともにあるいてゆくつもりはないそのまんまむかれた蟹の脚でいてくれ

もう人とはなさなくてもいい馬の延長としてかたむける耳


○ 吉岡太朗
左手がどうであろうと鯖寿司を食べているなら食事中です

折り紙を折るしか能のないやつに足の先から折られはじめる

プルタブをかちかちいわせる集団が音で仲間を増やして海へ

かろうじて鯉だとわかる きらきらと鱗のかわりに画鋲まみれの


○ 平岡直子(特集分)
封筒を開くひかりではずしゆくあなたの胸に並んだボタン

人類の願いはどんな葉書かと脱ぎ捨てられたからだに触れる

図書館のドアを開いていちめんのあなたの服を保冷する雪




うえにチラリと書いたが、「町」創刊号には
同人の連作20首のほかに、じつは特集があったのだった。
特集は「本歌取りの複数」と題されている。
これは「どんな形態でも良い、既存作品との勝手にコラボ」みたいなもので、
同人の意欲的なアプローチもつづくのだが、
ここでも瀬戸夏子が、ぶっちぎったのだった。
その短歌競演(饗宴)のハイライト部分を、
後半を中心に、転記打ちしてみよう
(瀬戸の表記と変え、瀬戸以外の作者名は一首に寄せることとする)。

【The Anatomy of, Denny’s in Danny’s】

○ 盛田志保子
星と星つなぐ閃き買って出てあたり一面の星をかなしむ

○ 瀬戸夏子
みずうみを鞄にしまうあの世の疲れたみずうみ繰りかえすまばたき

○ 荻原裕幸
女の子とは二十歳未満であるわけの雪を降らせるこのOLは?

○ 瀬戸
太陽におしっこひっかける太陽のなかに座って踵に数字

○ 宇都宮敦
スカートの端までわたしは愛されて いいかい いまから調子にのるなよ

○ 瀬戸
かたつむり一般車輌を塗っただけしかもフライパン裏返しただけ

○ 笹井宏之
みずとゆきどけみずであうきさらぎの、きさらぎうさぎとぶ交差点

○ 瀬戸
昇降機にたっぷりの幽霊、ひだり手に花という海のわたしの重力

○ 望月裕二郎
町中の人がいなくなる夢を見ておしゃれでいなくちゃいけないと思う

○ 瀬戸
桃色の脳とりだすきみデニーズでしろい机でからだも洗ってあげるよ

○ 飯田有子
ミイラになってもめがねをかけているつもり汗かきの王様でいるつもり

○ 瀬戸
では載せなさいそんなにきれいな内臓は割れてもかなしくならないお皿に

[…]



ちょっと上の引用法では瀬戸夏子にアンフェアかな。
この一連で瀬戸の透明な絶唱というべき名吟を
さらに四首拾ってみよう。



みずうみに出口入口、心臓はみえない目だからありがとう未来


ではなく雪は燃えるもの・ハッピー・バースデイ・あなたも傘も似たようなもの


オレンジを切った両手の100年のにおいを摘みにくるあと100年


あたらしい死体におにぎり売りつけてわたしの死体さがしにいきます




ところが、この作歌饗宴(競演)には後日譚ともいうべき、
瀬戸の散文詩も付属していて、これまたすごいのだった
(一体このひとはどうなっているのだろう)。

転記打ちは面倒なので、アトランダムに少しだけ抜く。

ファミマとマックのどちらに忠誠を誓うのか、これは重要な問題だ。デニーズは消滅してしまった。その子はデニーズでアルバイトしていた。

デニーズが消えたとき、どんな感じだった?
ものすごく光ってた。きらきらしてた。

デニーズ座だね。

てりやきマックは売っていないと言われたのでわたしたちは、早速、それをつくることに決めてしまった。店員をとらえてレジからひきずりだした。すべての優柔不断となかよくしなさい。なかよくしなさい。




――昨日、書き忘れたこと。
おととい研究室に大辻隆弘さんからじきじきに
ご著書が届いていた。
『岡井隆と初期未来』(六花書林)と『アララギの脊梁』(青磁社)。
僕のブログ記事に感激されてのご恵与だという。
嬉しいことだ。
大好きな歌人に自分の書くものが認められただけでなく、
このようにネット上に不意に生起する贈与自体を好きなのだ。
夏休み前には拝読できるとおもう。

それと、近藤弘文くんと高塚謙太郎(都市魚)くんの連詩が
ついに満尾した。
これはさっきペーストを完了、これから読むところです

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2009年06月10日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)












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