茎の水を酌み
【茎の水を酌み】
みたこともない柳が殖えている
そんな途上を櫂でゆく
さいきんは少々、脚を引きはじめたが
この神の証さえ長衣でひた隠す
女だてらに また 男だてらに
夏の日の終わり、水洟
それだけで俺の顔、他者。
たくさんの目脂や目脂や目脂
来世をかがやく蓮田の花粉どこだ
中年は食生活の貧しさを自慢しあう
「おでん缶食べました」「芋粥缶食べました」
「幼虫缶食べました」 ついつい嘘も出て
ネルヴァルの黒い太陽が深刻癖を解除する
「われわれの曇り空だから
七年ぶりの皆既月食、見逃しました」とさ
(よって)微醺だ、微醺、
茎の水を酌んだ浅酔いで見返すと
いまだにびくんびくん伸びている
ただ縦をなす「世界の背丈」
大事なのは茎だね、それしかない
そこを甘露の魔がいつも昇り
輪郭にも繊毛が極端にふえてゆく
肖像画など不可能とついデリダめき
顔だって黒ヴェールで隠す
(残響残侠)微醺だ、微醺、
ご参集の心は意外に平板な 夏の喪
金魚がわれわれに倍して及んでゆく
刃物や兵[つはもの]や約物
詩篇の装身具もとりどり、
もって冷やっこく