鬼ともいう
【鬼ともいう】
秋になると冷奴のおもてがいよいよ冷える
眼下の遠景をぷるん、といわせて
播州はきっとすすき狩りだろう
「眼の銀」も巻末には一掃されるだろうか
ものいわない口がひとりで食べる
誰かの誰か その食卓を聴く
去年は生き別れの父が死んだ
さよう死後もずっと食べている霊には敬礼だ
巨木を隠していた密集の蔦を
毎度の行く道にみていた
鬱陶しいなあ 追慕なんて、
蔦もやがて樹下の草へ自らを禅譲する
世界の拠点いよいよ色を薄くして
ひともとの若い、茎だけの茎が
浄土の風にゆらいでいる
五十六億七千の音楽、
今年後半またそれが通るはず
ぞろぞろと この敏感な鰭をぬるくして
「うつせみぃ」「そどみぃ」
応答しあうものが擦過に濡れる
《道にあやなく惑ひぬるかな》
繊かな花のした影を
「鬼」ともいう
《あるにもあらず消ゆる帚木》
それをそれを「鬼」ともいう
琉球のあらゆる夏炉、
樺太のあらゆる冬扇、
弧は弧として反り
弓張る力をヒタたくわえて
首席賞の時計を卒業後もねらう