馬の海
【馬の海】
疾駆する馬のかずだけ
野はらが縦横にながれている
馬上がうまれ馬上がきえる
秋は日に日に
水平におしこまれてゆく
まるめろの位置だけが高い
もうずっと
天でも地でもない領域を
そうして語りつくそうとして
発語を舌でふさいできた
嘔くために白いものが
口腔にはひろがっていて
しかもこのからだへの
なつかしみとなるのはなぜ
それもこれも祈りからだろう
ほのかにひかるものを追う
追うだけの、ゆく足だ
身だって馬性を滅ぼさず
電線と切り結ぶ線となるが
わたしの送信は
わたしが身であるかぎり
すすきの地まで限定してしまう
たれもいない懐旧の場所に
わたしの嘶きがいるか
つむいだ糸が逆算されて
糸ぐるまをそのようにまわすか
ただ、からからからと
馬たちは縦に走りを割って
想像をさいなんでくる
噛む噛む噛む草
走行も咀嚼に似るだろう
世界は機械がうごかしている
だから紙の裏が恋しい
わたしもわたしを
いったんは折ってみせ
内側にくりこんだ矛盾でこそ
この仰角がえられる
天にある馬のかずを
名づけようとはしたのだ
個々に火を吐く馬の表情をみたが
それらは翼を出して走りつづけ
ついには世界となって流れさった
秋にあるのはそんな変色
冬の黒までそれは存続して
とりわけ近眼にとっては
馬の海が沖に集まってくる
なんたる色彩だろう
水平もやがて遠望に変わる
反作用のわたしが倒れる