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帽子についての幾つかの質問 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

帽子についての幾つかの質問のページです。

帽子についての幾つかの質問

 
 
今日の午後は、立教の椎名林檎講義のため
まずは久しぶりに東京事変『教育』を聴いていた。
林檎はここまで--
つまり『無罪モラトリアム』『勝訴ストリップ』
『加爾基 精液 栗ノ花』から『教育』まで--が
完璧なアルバムだった。

それから林檎の曲にとりあわす
別のアーティストの曲を物色した。

僕は『教育』の中央部分、
「現実に於て」「現実を嗤う」の流れが大好きで
そこでは英語曲のドイツ風発音とともに、
スラップ・ハッピー/ヘンリー・カウが大成した
12音階ポップスへの意識も感じられる
(ほか「駅前」にも同様のものが伏流している)。、

なのでとりあわせる曲も
戸川純「ブレヘメン」、
それに石橋英子&吉田達也、パニック・スマイルも考えたが、
やはり御大のハッピー/カウに出馬ねがわないと
何かが締まらない。

それで辞書を引き引き、
ハッピー/カウの「Some Questions About Hats」を
手ずから翻訳することにした。

稀用語彙と類音連鎖が多く訳出には苦労があったが
つきあってみて意外だった。
12音階ポップスの不可思議な感じからして
「帽子」は超現実的に捉えられていると高を括っていたが、
英国帽の非装飾性美学の堅持主張とともに、
帽子に「女性」全般の暗喩を交錯させた
フェミニズム的歌詞でもあったのだった。

ただし歌詞の組成が変。
原詞は「Can one・・?」疑問形の単純連鎖にちかく、
それで歌詞を成立させようとしている点がダダだった。

ところがどうしてもこの疑問文連鎖を
そのまま日本語に移し変えると意味が通じない。
それで大幅に原詞を「意訳」することにした。
それが以下。
まあ苦闘の跡を読んでいただければ。



スラップ・ハッピー/ヘンリー・カウ
【帽子についての幾つかの質問】
(アンソニー・ムーア/ピーター・ブレグヴァド)

どうして人は帽子を薄気味悪くするのだろう?
それを風雨にさらし、
さらに羽根飾りまでつけて。
帽子の怒りに耳をかたむけるべき、
帽子に熱を出させるべきだ。
形が崩れれば、帽子も駄目になる。
屋外の水門が
驚きの声をあらわにする、
濡らして帽子の姿を良くすることなどできようか、
帽子を火にくべるのも無理なのに。
帽子自体もっと気高さを望んではいまいか?
人は帽子を競わせもできるのではないか、
邪まなものごと、有害なものごととも。
いったい甘草魚に翼が生えるだろうか?
人は帽子を遠ざけえない、
それは単純でもないし
退屈でもない、
よわく華奢でもないのだ。



実はこの曲の収められている『Desperate Straights』
(大学時代の僕らは「絶望一直線」と呼んでいた)では
原詞がLPアルバムの裏面に印刷されていた。
僕がもっているのは輸入版で、
友達のもっていた日本版には歌詞対訳がついていて
それはもっとダダ風に訳されていた気もする。

CD化に当っては、アルバムの収録時間が短いので
スラップ・ハッピー単独名義の
『Casablanca Moon』とカプリングされた。

これがじつはレア音源。
スラップ・ハッピーのなした本質的で静謐なポップアレンジに
プロデューサーが「地味」と判定を下し、
弦楽等を加える「甘い」オーバープロデュースをしたものだった。

スラップ・ハッピーの面々はそれに怒り、
プロデューサーに対抗し原盤をリリースした。
タイトルは逆さ綴りの『Acnalbasac Noom』とされた。
僕の大学時代には、
こっちの盤のほうが輸入レコード屋に出回っていた。

そのカプリングCDも、僕のもっているのは輸入盤。
日本盤は出たのかなあ。
そこにライナーノートと一緒に対訳も入っているのだろうか。

何か知る人ぞ知る、マニアックな情報を書いてしまった。

ともあれ12音階ポップスのオンパレードに
授業はなるはずで
受講生はさぞやその機知の高さにびっくりするのではないか。
ただし、この部分は次々回の講義になるけれども



夕方、ポストをみにゆくと
前にも書いた「ユリイカ」のタランティーノ特集が
詩集と同人誌それぞれの寄贈とともに届いていた。
僕の原稿は
編集部が「キメラ的映画のほうへ」とタイトルしてくれた。
タランティーノに「影響を受けた」日本映画についての、
列挙的考察だ。

まずは自分の原稿だけ読んだ。
情報量が多く、しかも考察が端的で、
偏差値が高いのに読みやすい原稿になっていて
われながら満足の出来だ。

行間からは、映画批評の変換点の示唆という
かなり過激な主張も拾えるはず。
蓮実-黒沢清対談と同居、ということに
のちのち意義が出るかもしれない。

その他の寄稿者に、
菊地成孔、稲川方人、丹生谷貴志、
山崎高裕、樋口泰人、陣野俊史各氏ら。

タランティーノ・インタビューは
西島大介がおこなっていて、そこが「ユリイカ」ぽい。

「次号予告」に名前の載っていた、
青山真治は原稿を落としたようだ

ともあれ多彩な執筆陣。ぜひ書店で♪
 
 

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2009年11月26日 日記 トラックバック(0) コメント(1)

【帽子についての幾つかの質問】、
意訳がすぎるかと
いまになり、ちょっと不安になってきた。
慌てて「直訳版」を下にしめしておきます。
ただし「・」「( )」は僕なりに足しました。



【帽子についての幾つかの質問(直訳版)】


・人は薄気味悪い帽子をかぶりうるか?
・人は帽子を風雨にさらせうるか?
・人は羽根飾り帽をかぶりうるか?
(怒る帽子に集中せよ、
 帽子より発熱をさせよ。)
(倦み疲れたとき、帽子も無効になる。)
(屋外の水の扉が
 驚愕をあらわにする。)
・湿気は帽子を魅力的にできるか?
・帽子は火にくべりうるか?
・ひとつの帽子は
 より貴い物事を切望しうるのではないか?
・人は帽子を競わせうるか、
 邪まな物事と、
 有害な物事と?
(翼が生えた甘草魚?)
・人は帽子を遠ざけうるか、
 単純な物事として、
 退屈な物事として、
 弱く華奢な物事として?




スラップ・ハッピーは70年代前半に結成された
西ドイツのアヴァン・ポップ・バンドです。
メンバーはダグマー・クラウゼというドイツ人の歌姫を
アンソニー・ムーア、ピーター・ブレグヴァドという
ふたりの英国人(マルチミュージシャン)がサポートしていました。

一見、ヴェルヴェッツ風のフォークロックにおもえますが、
何か均整がゆがみ、そのポップさも前衛的でした。
スタジオ録音では、リズム隊は
ザッパに影響を受けた
地下音楽、テープ編集音楽のファウストが担当していました。

このスラップ・ハッピーの前衛ポップ性を
取り込もうとしたのが
これまたザッパに影響を受け、
ジャズ、ロック、現代音楽を融合させていた
イギリスの政治的音楽集団、ヘンリー・カウです。
カウとハッピーは合体した。

それはやがてダグマーの12音階歌唱を中心に
より政治性をつよめてゆき、
やがてはアート・ベアーズ結成へと発展する。
そこで、脱退したのがムーア、ブレグヴァドの
旧スラップ・ハッピー組。
結果的にダグマーは、フレッド・フリス、クリス・カトラーなどに
拉致られたといってもいいでしょう。

もうスラップ・ハッピーは存在できないと考えていたころ
スラップ・ハッピーが一回再編成され、
ゼロ年代初頭には日本でのライヴもおこないました。
そのライヴ版もCD発売されています。
往年のスラップ・ハッピーの名曲と
再編ハッピーの曲を分け隔てなく「静かに」演奏していました。

僕はそのライヴを観にいっています。
吉祥寺の小さな小屋で、
前座が「さかな」でしたね

「さかな」は日本で12音階ポップをやっていた男女混合デュオです

2009年11月27日 阿部嘉昭 URL 編集












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