雨桜
【雨桜】
セルフにあいだがあることも
ひとつの修羅だろう
ましろい開花のつめたさを
雨の無情な冷えが這う
奥座をあらいながら
冷えと冷えがあみをなし
遠目に雨中さくらは
全しずくと同じにもなる
くりかえし繰り返す百年が
身にとっての一日となる
一花と二花のあいだが
濡れで無惨につながれて
百花はさかさの盃
なにの模倣、なにの降下だ
吐くようなそのすがたに
眼をこらす、あめがつたう
あめと悲鳴がつたえあう
ただただ 冷えてゆくだろう
天と雨がつながるさくらは
もの想う下向きの紡錘
すでに毒と電気をはなって
蜜どりを遠ざけていても
雨によってためられて
奇態な雨媒花となる
腫れてふくれて
ぬれた花粉がくずおれ
生殖も片片に破損し
水の重量を支えられず
こぽこぽ決壊する花
一身しずかに洪水となり
血のない流血となる
あざだらけ
崩壊時計、さながらが
生殖のいまなのだろう
狼藉により次代を期すもの
そういうものは
ただただ地のうえに
冷えて形を失う