頭山
【頭山】
《曇天の日にかぎって面倒がおこる》
視野に四角く截ろうとした
「前方」が揺らぐから。
ゆっくりと姿を現す「滲むもの」
臆病は足許を見て歩きつづける
草の花の青や青を吸い込んで
眼底に滑らせた数十秒
・曇天に移動が触れて寂しさよ
・眼路に青、生[あ]れては消ゆる寂しさよ
陽が雲間で手回し風琴を弾き
風体を冷やしつづけるから
不意に歌の残量が見えてしまう
本格の秋は砂時計よりもくびれる
肌着同士の行き交った今年の部屋ぬちも
過去の前方になり 点に閉じた
同じ日 京都の田中宏輔は
場所を換え 場所を換え
詩集のゲラを見直している
移動すると自分の詩がちがって見えるらしい
身の置き場が別なら眼路も別に
ならば宏輔さんが見ているのは
きっと「みんなのバード」だ
最初っから鳥の翔ぶかたちも
鳥ではなく空の残心だろう
くもりびの息を円く抜き
五条の橋から転がしてみる
淀へ淀へと 歌を懸けて
「頭山」は自我位置の矛盾
だが投身入水すべき山の池は飛び地して
小高さの薄青を眼につなげている