てつぶり
【てつぶり】
短歌と映画をやる友衣
音楽で眼が燦めく大中とで呑む
いつもの早稲田 モツ焼き屋
店頭の赤提灯のなかに
丸はだかにされた貴婦人の背中が
ほろほろ泣いていて、
取り巻く愛語もいっぱいだ
《臓物は天からの寄贈物》
《はらわたの透くまで泪を》など
歯で串を抜く野蛮
横へ横へ食餌が伸びるから
しぜん会話が縦になり
僕の歴代日記が頌められる
世辞には唐辛子をかけるくらいが
鱶鱶した地口に合ったりする
つられて友の衣をおもうのか
手許から滲みだす 秋のはがね
秋には明視の一点がおもく
「手瞑り」がまぼろしの鉄鰤にふれる
泳げない類別が いろくづにある
それを流しやり わかめの底にしずめ
楽をゆきかわせることが
われらの《八岐に別れゆきし日》
春に野蒜を摘まず
秋に枯れ蔓をはらって
十指によごれた幼名の名札を
古壁にあきらかにする
この声のあいだに千のからだがある
かえるさ。
白風に垣根のただしさパウロ来る