杖 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

杖のページです。

 
 
【杖】


おとうとは葉のしげった兄のあやつる杖にみえた。
中空にその杖をひとふりすると梢は花を生じた。
そのたびにおとうとは頭痛にかおをしかめた。
杖は川ざらいにも向けられて底から函をあらわした。
墨をつけられて文字の書かれたこともあった、「不具」と。
弦を張られてかなでられ貧しさまでもがひさがれた。
まぢかの杖があるかぎり彼方の杖があっただろう。
坂を想像しておとうとは兄の兄になってみた。
釜炊きで炭をかくのにつかわれて杖は赤裸ともなった。
兄はおとうとの顔を塗って「覿面」ということをいった。
杖は棒におとしめられ夜半には貧棒とまじえた。まじわった。
なかまの櫂に会って杖は夜船のさまよいも聴きだした。
しかしおとうとは杖としてありながら杖のなかにたっていた。
長子相伝のうたげにはじかれて杖が土間にころがっていた。
飛翔をうみださないそのことにおいて魔法の杖だった。
たしかに魔法の杖だった。泣いた。本物の跛者に拾われて。
さらわれていった。「跛者になるとみえる跛者の数もふえる」。
月あかりにうかんでいた遠煙突は空に雲が起きて消えた。
杖の掟だろう、あるく脚に添うようにそれも消えた。
うまれかわるためだった、いびつで奇数的な音がのこった。
 
 

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2010年09月14日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)












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