棚を考える
【棚を考える】
蜜柑の実るまちだったと
不意に気づいても
思い出は呂律がまわらない
空だって 見たという実感が
終生湧かないままだった
物書きには背景が紙と拡がるばかり
皺だらけのそこ、
トリモチでたどられた折れ線にも
奥ふかく鴉一羽が刺さっている
こんにちの、空のきぃきぃ
なんにも統べはしない、
愛の形式は でも手渡しに尽きます
どうぞこの糸車を発煙筒を。
自分を化かさずして何の死後想起か
鏡というすきまもすべて破砕した
賑わっている賑わっている
穫られ損ねた糸瓜が霊体となって
庭の棚状をぼんやりとゆれている
(謹啓――昨今、「棚」を考えています)
ゆれるものがやがて線となるから
予感も賑わっているというのだ
王冠をかぶらずして王
が往還音痴のままゆきかうから
ありふれる地上の乞食[かたゐ]なのだ、
一糸が別糸を待つ、
この緊張で裁縫師の手許も交易も
澄んでゆるがないだろう、秋は。
もうじきおわるよ――何が?
暗い白に暗い白をかさねるマラルメ型が。
「白から白へ、に移行なし」(校庭碑文)


