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ひとがつくった絶景 ENGINE EYE 阿部嘉昭のブログ

ひとがつくった絶景のページです。

ひとがつくった絶景

 
 
【ひとがつくった絶景】


甲州街道のけやき並木が
葉をおとしつづける絶景の午前
ひとらは頭の頂に葉をのせて
すこしは硝子になってゆく

支度はあるく歩度なのだろうが
葉を刺青すれば枯れる腕すら
胸には引き寄せられなくて

眼は黄金をのんだと慨嘆する
おぼろげにひびわれてゆくもの
が肌にゆっくり曇っている
やがて余熱でひらいてゆく道
によってできてゆく眺望
道に出会う道の箇所で
われている今日の水槽が
十字路に発端をつげている
断片をみせる以外に何がある

あくまで舌のそよぐ犬道
悪に似たものならあるのか
からだは雲母をふくんでいるのに
ひとにはひからず
のびている道にだけひかる




昨日は出講するときつよい風がふいていて
甲州街道の欅並木が
おびただしい葉を舞わせているのに息をのんだ。
中空より落ちてくるものがかくも多いと
風景がひかっていると感じるのはなぜだろう。

昨日は酔っ払ってかえると
いつもの横断歩道で
二台のクルマがくしゃくしゃになっていた。
警察が現場検証をしていて
そこを野次馬がとりまいていたが
その野次馬もひかっていた。

ひかりつづけた一日。
上の詩を書いた。

小池昌代さんからお借りした
江代充さんの詩集『昇天 貝殻敷』を
いま読んでいる。
詩法は現在の驚異的な詩法の原型といえるもので
まだ「持続」ではなく「断片」の感触がつよい。

ただ本当は「断片」を提示する以外に
われわれの生にはなにもない。
むろん現在の江代さんも断片と持続を攪拌して
しずかな驚愕をあたえる。

道と葉にかんする感慨は
その詩集にもあった。転記打ち――



【秋】
江代 充


プラタナスの葉がブリキのように曲がる地上の秋
雑踏する暗い胸が幾何の鼓動で大空をめぐり
どこかの入口からぬけ出した一羽の鳩が
つちつちと悲しみにぬれながら過ぎさった
わたしは羽音からきた金属のさえずりを持てあまし
探るような額で路上から仰いだ天使だった
  
 

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2010年11月10日 現代詩 トラックバック(0) コメント(0)












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