ひとがつくった絶景
【ひとがつくった絶景】
甲州街道のけやき並木が
葉をおとしつづける絶景の午前
ひとらは頭の頂に葉をのせて
すこしは硝子になってゆく
支度はあるく歩度なのだろうが
葉を刺青すれば枯れる腕すら
胸には引き寄せられなくて
眼は黄金をのんだと慨嘆する
おぼろげにひびわれてゆくもの
が肌にゆっくり曇っている
やがて余熱でひらいてゆく道
によってできてゆく眺望
道に出会う道の箇所で
われている今日の水槽が
十字路に発端をつげている
断片をみせる以外に何がある
あくまで舌のそよぐ犬道
悪に似たものならあるのか
からだは雲母をふくんでいるのに
ひとにはひからず
のびている道にだけひかる
●
昨日は出講するときつよい風がふいていて
甲州街道の欅並木が
おびただしい葉を舞わせているのに息をのんだ。
中空より落ちてくるものがかくも多いと
風景がひかっていると感じるのはなぜだろう。
昨日は酔っ払ってかえると
いつもの横断歩道で
二台のクルマがくしゃくしゃになっていた。
警察が現場検証をしていて
そこを野次馬がとりまいていたが
その野次馬もひかっていた。
ひかりつづけた一日。
上の詩を書いた。
小池昌代さんからお借りした
江代充さんの詩集『昇天 貝殻敷』を
いま読んでいる。
詩法は現在の驚異的な詩法の原型といえるもので
まだ「持続」ではなく「断片」の感触がつよい。
ただ本当は「断片」を提示する以外に
われわれの生にはなにもない。
むろん現在の江代さんも断片と持続を攪拌して
しずかな驚愕をあたえる。
道と葉にかんする感慨は
その詩集にもあった。転記打ち――
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【秋】
江代 充
プラタナスの葉がブリキのように曲がる地上の秋
雑踏する暗い胸が幾何の鼓動で大空をめぐり
どこかの入口からぬけ出した一羽の鳩が
つちつちと悲しみにぬれながら過ぎさった
わたしは羽音からきた金属のさえずりを持てあまし
探るような額で路上から仰いだ天使だった