途中を撮ったらしい
【途中を撮ったらしい】
夕暮れ前、穂をとばしている芒の原とか
玄関先、土星のつもりでからだの空気をぬいているきみとか
下り坂を疾駆してヴァニラのしろいにおいを嗅いでしまった自転車とか
容積の自燃のため水底で懸命に甲羅を脱ごうとしている亀とか
輪郭のあることにひかりをうけて割れようとしている甕とか
円いものを遠景の原として胸にかかえている抽象的な身熱とか
知覚を検討したときの、菱形と正方形のぎりぎりあいだとか
にしきの秋を背後にながしている、場の思い出でできている阿弥陀堂とか
一単語のようにつぶやかれて一時間の沈黙にはいったくちづけのその後とか
この旅はずっと途中ばかり撮ってきた気もするのにまるで憶いだせないでいると
あなたは半分もう消えかかって髪が柳と連続している
あなたの途中こそもっとも由々しいと、明視癖のあるきみにいわれて
この生活がB面なら、かえした微笑みがたぶん最後の途中になるだろうとおもった
そう途中とはなにかにつけ きれいなものだ