立教演習連詩C班
演習でできあがった
連詩の第一弾を下にアップします。
演習では「付け」のポイントを
相互検証(講評)したのだけど、
とりあえず時間がないので、
まずは「現物」のみ提示します
○
●連詩C班
1【揺】
門司奈央
たゆたうまでそこにいなさい
とまとでも握りつぶして
なきむしマリーの部屋のすみっこにまいてね
かたかたになるからちゃんとならして
手の奥のおくまですっきりおさまった
めた
眺めている
あ、とくちをあけて
ふ、ととじて
へただけになったお前を
2【 】
松井利裕
濃紺ゴーグル
全体に白砂は乾燥し
289の刻印
放線の鋭利な星を胸に
踏まれた空缶
彼女はトランクに腰掛け
老犬の臭気
背中の汗は甲虫の形で
窓から覗く少女
レコードが果てない旋律を奏でる
ログアウト ログアウト
街路は日に晒され
ログアウト ログアウト
3【トパーズ】
阿部嘉昭
まちかどがひとつの場所なら
その一瞬のゆれをカメラにおさめて
とおりすぎた人びとのため息をのぼらせてみる
まだ世紀末の7の月がくるまえ
109のまわりはトパーズのなかにはいって
トパーズのなかにはいったそのカメラのなかにも
まちかどが倒立してきいろくはいっていたから
宝物みたいに撮ったあとのカメラを振って
人びとの気配のため息をフィルムの上になだらせ
かげろうのようにそこにかなしみのたちのぼるのを
きいろきいろすでにトパーズのなかの
自分の眼のなかの場所にもかんじていたんだ
もうもうとまちかどがひとつの場所なら
4【銀河鉄道特急】
アイダミツル
午後六時のスクランブル
そこもう銀河と同じ
空なんて見ないでもいいから帰ろ
記憶の上書きを
演算処理 一個一個きれいにしてって且つ速やかなのが好きなんだ
末端の神経だけが生命と思うね
そのあいだ暇だから妄想でもしとこうか
トレン、トレン、エレクトロニカ…
瞬く視像の切れ端が車両の突端に集い放射線状に開花する
目を凝らしても瞬時に焦点は滲み
点滅と
錯綜と
針状の加速がうっとうしくも
とまらない目眩のストリームにかろうじてかたちをとどめた音色が君の好きな音楽に似て
トレン、トレン、エレクトロニカ
着地失敗直後みたいに妙な拍で
優しさも痛みも感じない
トレン、トレン、エレクトロニカ
裏返しの夜に還る
そのあいだ暇だから妄想でもしとこうか
5【機関車番組】
三村京子
八戸から走りだす
機械じゃなくて蒸気で
泡盛二杯で新栃木まで(田園都市線
日々にわからないことが増え
入り口がない。一生ないのだ
恥、水のなかの。
八戸から走りだす機関車の映像
わたしはそうしていっときは
音楽をゆだねられる
――痛くもかゆくもないものは多いよ
けれども刻々、おそわれるように
まぶしくて
眼のあけかたがむずかしい
ひらけば、山間を走り抜ける
機関車の速度に
とっくに置き去りだった
わたしの目玉も、手足も
その空のように
6【閉鎖】
門司奈大
アナログのものが好ましい
はりがちくちく蠢いて
わたしの脈を食い破る
出口しかない指先巻いて
どこにもいけないやけどの匂い
九番目の女の子
道をゆがめてうめなくなった
たんとんたととん
ひねりつぶさないで
かよわいものは愛せない?
つかめるものは手首だけ
貧弱なものになりたいか
からの眼窩がほどけるまでは
ヘンゼルだけのこもりうた
7【旋回・ドナウ・複製】
松井利裕
私は牛乳を飲んでいる
腕にクロノグラフを巻いている
手首の骨がおもわず鳴る
後ろを振り向く
私の分身が言葉を発している
「ドナウの……」
河の話をしているのだ
八つの言語でドナウの話をしている
ならばむろんワルツを踊らなくてはならないそのためのクロノグラフだ
青い線を引きつつ回っている
八つの言語がドナウを中心に回っている
私の分身が私のこめかみに指を突きつけている
「ドナウの……」
河の話をしているのだ
8【円環屋】
阿部嘉昭
クソや水牛や老人や車馬や沙羅双樹がうかんで流れるのは
なにに似ているかと訊かれ
あたまのなかのガンジス と
川は湾曲し円環して、しかし川のかこむ場所が中洲にはならない。
なぜなら中洲的な場所をめぐる川の水が円環しているからで
そういう旧い熱を、めくられようとしている旗を、あたまのなかのガンジス と
砂洲に棲む夢の種族がいる。鷺、鶺鴒、わたし、その他。
少々の草で庵をむすびながら、きいろや瑠璃を川風に半減させている。
その語は藁状で、太陽の肛門についたクソをおもわせ、人間の発話を侮蔑する。
知らないままながれてしまういくつか、これも、あたまのなかのガンジス
くみかえながら、めぐりだすのは幼年来のはだしや渦の物おとで、
鉢は こんなくるめきを 枯葉のように いっぱいに した。――いずれもわたし、
牛乳にわたしを飲んでいる
9【透過と襞の思考】
アイダミツル
仏陀の公転/遥けき大気
胸を捲り風に曝し
乾く
華奢な裂開の
それは襞のまま
沙羅双樹の洞〔うろ〕に響いた
問いかけるのは閾値のあわいに
屹立する鶏卵
彼女は優しかったか
力学的には と
10【バターケーキ】
三村京子
卵が苦しくたまったら
それを見せてもいいのだろうか
優しくなかったひとはない
それを見られているあいだに
見ることも見られることも透けてゆき
おっと
遅刻しそうだから
とり替えよう
バターケーキかなにかに
配合の問題。
それで、
悲しい目の女を取りだした、
アラビアのドラムが響く夜に。
11【ようこそ】
門司奈大
膨らんだ射手座のはらに
低価格のわたくし
まんだら曼荼羅
芳詠の薔薇でも撒き散らして
読む幸せうふふヨムヨム
つぼみと硝子で腕を飾れば
優しい人になれたのに
焼け爛れていく
才能スピリチュアル/破裂する鼠/愛していま(す/せん)
ようやく出来上がったフルゥツベェコンパイ→皮
足でリズムをとったって
わたくし唇そのものミックス
骸骨鯨さようなら
いらっしゃいませ、こんばんは
12【層】
松井利裕
買い物を終え、外に出て
傘を差した熊にそそのかされたら
誰だったか
二人並んで箱に入り
他の階層へ下る
比重が/重さの
消え/いない
重なる熊がこちらを見つめ、
あなたはどこまでも忠実な人だ
二度目の分離を讃えている
やがて
ものが降ってくる
私に
もの、が
13【きぎ】
阿部嘉昭
はちみつのにおいのするてのひらで
しかめつらをする木のひとをつかむと
てのひらにはまみずのなかがあらわれて
おもたいもののういてゆく画集の気がする
きみをあらわれる筆触として愛しているんだ
のべつのべつぼくにくりかえされるものとして
きみの川底をまいている水のうごきが好きなんだ
眼のなかのかいだん眼のなかのりぼんの逃げどころ
箱がじぶんにあるのか相手にあるのかわからないまま
きき金木犀ぎぎ銀木犀のきぎが眼のなかに濃淡をつくり
とおいものとちかいものを一緒にみては消える自らもいる
てはてはてはみぎとひだりのかさなりのようなわけにゆかず
ぼくはおりかえし地点きみにちかづく自らのあゆみへ折られる
14【Stalker】
アイダミツル
ミニスカートの白
オーガンジィの幾重もの白
八十デニールかそれ以上の黒タイツ
イギリス人少年少女によく見る棒ーのよーな脚
照る鞣革の踵
具合のいー緊張要する小気味いー歩幅
深夜におとなしいビルディング
ヒール響かし過ぎるヒルサイド
森ビル正面ハイライトへの透過
自分じゃ決して纏えないその花のよーな薄肌のよーな 化繊?
の、
疎なり密なり
ドウシタイカナ迷ってるとくに中指人差し指
15【斜陽芸人】
三村京子
中指人差し指ケイレン
ケレンもなにも知らないケレドモ身体衝動沸き返る
ヘンシュウ的な変奏衝動くりかえしたたみかけ
追いかける追いかける
これはノイズなりや?はたブルースなりや?
追われる追われる
上座から上座へ
それは地の果て芸人のなけなし
優しい無関心などダキステテ
地底から地底へ
コウシン情報発信のナマグサイ営み
天上スクリーン上、渡りゆくのはツカレタピエロ?
それともセイレイ?
16【お静かに】
門司奈大
清廉な空気の中でわらうらう
やわらかくかみつくの鼻からそっ
といきが抜けていく
足音はたてないように
草の中をかき分けて過去
、そこからどこにいくのかわいこちゃん
耳に大きな腫瘍ができてるのに、さびしくないの
「避妊手術を終えました」
春生まれのあの子の本当の名前は
タオルケットと言うんだそう
海をくっつければ長生きするはず
なんてね、そんなのうそ
ひとりぼっちのさいごに寄り添いたかったよ
17【積と対比】
松井利裕
風が吹くから
パイル織の水面は小波が大きくねじれて
しかしそのまま無造作に丸められたからには
たいせきをかくとくして
球の、あるいは立方体、
ただ、また風が吹くから僕は浮き輪に乗って
ひゃくおく回繰り返して繰り返してくりかえして
やがて
白い点の太陽になって
人々を
見たり焼いたり楽しむ
18【愛ノ夕方】
阿部嘉昭
イヅレネギノハタケガ
フユゾラトスレアフ
アヲイウミニナルマヘニ
ユフヅツノジユモンヲトナヘテ
カスカナヒカリヲカラダニヨセル。
ココロニアルサンカクヲ
ネギニアルアヲヤシロヘトナガシ
ココニ、フユノワタシヲツクル。
ヱントハソコカラスベテノサル穴
ワタシモ円クナルダラウカ。
アヲイウミニナルマヘニ
ウタフコトバヲタヅサヘテ
コノ愛ハ、アナタノサミシイ
ネギ汁ニナラウトチカフ。
19【硫化アリルからはじまる或る愛の連鎖】
アイダミツル
硫化アリル:抗菌・殺菌作用及び血小板凝集抑制の
働きをもつ おもにユリ科の植物に特有の刺激成分
それを体内に流す者 悉く彼らを惹きつけると言う
油虫 摂食が宇宙の意思とばかりに生命をひた走り
小脳刺激されし子猫 捕えては甘噛みし吐き捨てる
柔毛の海さまよう蚤は 皮膚に至り馨しい恍惚を得
はずみに落ちた水槽に展開する金魚たちの共喰らい
埋葬されし犠牲者 土中のバクテリアの胸を騒がせ
芝は女のように精を吸い上げ青く青くつやめきだし
牛の熱い舌先 ゆったり愛撫し突如しゃぶりあげる
屠殺の絶えぬは責務よりも最期の嘶きを悦ぶにあり
今 牛と私との間にかつてたゆたっていた境界線は
もはや存在論的な意義を失い 唾液中の酵素により
音もなく分解され始めた蛋白質に
ただ ただ ただ ただ
融け込んでゆくだけ
20【煙草】
三村京子
生産緑地地区にさしかかると、
「これはいい樹だよ」とN畑さんは言って、
楠の大樹が空をつついていた
ちょっとした平衡感覚があればいいのではなかろうか
わたしの金盥のなかのわたしは、周りが見えなかったのだろう
井戸があって、烏瓜の蔦がからまっている
水に顔が映っている
背のひくい果樹の園、とうもろこしの小畠
車道にでると背のたかいN畑さんは傾いた背骨で笑った
フィリピン沖の水温上昇、寒冷化をまつ無力の棲み処
秋をかえせと嘆くわたしたちに、ありがたい秋晴れの日だった。
きれぎれの都市の空
思い出すものがばらばらに切れてしまっていたようで
頭痛をおこすまいと両足で踏みしめるありふれた弱さを
N畑さんの煙草にともす
21【錯綜】
門司奈大
寒さに身を竦ませている
(あからさまにされてゆく愛情の形)
鈍重な空に目玉をポーンと投げ出している
(目的がないことが悲しいのだ)
はためくシャツが乾かぬことを嘆く
(嘘吐きは最初から最後まで誠実に)
足元の下駄が踊り出すのを笑う
(骨の形が浮き出ていたことしか覚えていない)
開き過ぎた洗濯バサミがパチンと弾ける
(引きつって声を失うのが怖い)
融解していく分離していく無機物
(起きぬけのシナモンクッキーがのどに貼り付いて離れない)
それが道路に落ちるのを眺める
(接触と非接触の隙間を埋めるため)
不可逆を次々と責める責める責める
(そのために言葉を探しているのに)
「理解と被理解を放棄することは傲慢だ」
22【ほぼ肉桂】
松井利裕
で
先の茶色い粉にやられても
正確には主体が肉桂で
だが磔刑に向いた
特にあなたがたのようなひとは
ほぼ
肉桂であるその肌のきめだとか緑の眼光だとか
だから
幸せだろうそうだろう齟齬がないんだ肉桂となら
肉桂なんだろ
そうだろう
なあ
23【ありがたい秋晴れの日】
阿部嘉昭
しなもんのかおりをはなつ、ひとの場所で
秋はまうしろのいちばだ、ろーずまりーもうられ
ぐつぐつと肺のすーぷができあがらないことの
とことわがわらわれているそういうのがたいようさ
しなもんのかおりをはなつひとの場所で
ろうそくうえる作業のひとを遠見するのだけど
一作業は別作業に代入できないともしるから
つれだってうたいながらころげながら牙までひろいにゆこう
矢のような光陰をかめなくなったそういうのがたいようさ
あすはかめろっとのまつりでひとのおもかげが象牙になる日
ちくびのぼかされた色がけむたいあさやけにみえれば
くちにふくむその慕いも最初のしろをたゆたってゆく湯だ
音楽だろうそういうのがたいようさ、いすかりおて
しなもんは門、ゆきすぎる僧形がおぼろにむらさきになるところの
24【wonderful diving】
アイダミツル
やわらかい幽霊が触れた
――いま?珈琲飲んでぅ。挽きたて
容疑者になってきっと迎えにいくと
――ありがとう、いま手帳を出すね
蝉を踏んでも塩気は足りないし
――いま素敵に憂鬱な気分よ
線香花火ではとても死ねないから
――霧吹みたいな雨に陽が濡れてて
だから夏は見送って少し経った今があるのだろう?
――ううんまだ...
待ってまだ待って
ねんごろに準備しようあなたと
――ダイヴするの。
、と
――ことばのために物語があるのよ逆じゃないわ
。と
――(...)
に文法を毀(こわ)されていい感じの季節に
――あの子がばかなのよ
もういいから口を塞いで
――あなたついてくる?
踏み出してじゃあねを言う暇もない湿った熱源が見えたりして
25【珍しい鳥のように】
三村京子
たまに出くわす、珍しい鳥のように、それは現れた。
「またか」と、思っていたところだった
だからその日は涙も出て、それを確認さえできた。
街境の、静かで陰湿な祭に巻き込まれていたんだ
一個の人間のうちに立ちおこるミクロの祭
目さえ瞑れば、ゆらゆら薄明るい深海の底のようなので
からだは浮かされる熱にまかせ
「誰もが泣いている」だとか、死んだ鱗翅のようなフィルムを重ねていた
発泡スチロールに似てしまった意識の上澄みで
(けれどこんなに、わたしに語らせてくれるなんて・・・)
水上の陽光をどうにか摂っていたところだったんだ
それはなんだったのだろう。
神風?
もはや透明人間のしわざではないんだろう。
わたしたちが抱いていた物語は
はじめからことばのためにあったのだと今、わかったのだから