歌手
【歌手】
鰭の部分に浪をあつめすぎたようで
風景にはこいびとになってしまう。
あやかるように傷む腕をあげて
空のカーテンをひきずりおろすとき
とうめいなひかりの籠にはいってくる
えがたい鮫の二、三にんと蠕動。
こんなふうに橋の手すりを殖えて
日傘をもつ顔かげのあゆみは
うきくさのあらわれるけしきまで
まぶたのうらへ散らしてゆくだろう。
円形からわずかにきざしてくる楕円なら
分裂しだした中心がどこかにある。
はなれることがわすれないおもかげだと
距離をもつ水仙と舟が眼下にゆれて
みた、星をちりばめた水面のへこみを。
そこらあたりから世界がぶりかえすので
とまらないすべりをとどめるために
ボタン穴へサマリアの草を挿すと
案の定ゆきだおれている旧弊もあって
この善心がふしだらな添い寝を決意する。
愛着の出どころは身の銀貨だって。
ながれている浪に浪を全うさせるなら
さきの割れてゆく輪唱でいいのに。
さかなを見下ろし唄うひととなったが
それがふきあげにもみえただろうか。
下という方向があって砕けてゆくだけだ。