かなしい顔
【かなしい顔】
もしそこに塔があれば
塔へ大きく架けられた者も
ていねいに降ろされて
しずかに哀悼されただろうに。
塔のないいまでは
くだかれた建屋の隙間へ
ただ放水がつづけられ
架けられる者が姿を現すよう
ひたすら予感が用いられるだけだ。
こうした予感の使用には
からだがのろのろ付帯してゆき
その気の遠くなる手続きが
一歩一歩のなかに踏みしめられる。
あれら放射線防護服の
みずからをも縛る堅牢さは
おこないの砦となって
おこないの不如意を
おくれて裏打ちしつづけた。
けれどやがて塔は建つだろう、
艱難がしずめられたとき
眼にみえない形式で。
そこへ架けられる者が
個々を綜合されたことで
どんなに哀しい表情をうかべているか
それをただ個々人より前に
逆ピエタとしてしめすために
ひとつの大きな顔を架けつづける
その塔は建つだろう。