手の一歩
【手の一歩】
日録の意味がうすくなったとき
きみはその形式を変化させようとして
ついきみじしんの変化をそこに繰りひろげてしまう。
たんに並列だった諸日のことがらが
尾をもった連鎖として生物化してゆくそのはざまで
時間ときみじしんの生物性が競われて
きみのしごとはきみじしんの影の位置に見えがたくなる。
きみは考えをやめることについて考え
考えないことをさらに考えない怪物に堕ちて
あらたな散在形式のなかへ点々と二重化してゆき
二重化の狭隘をも脈動しだすことになるが
それが全身装着感の隙間のなさにまで昇りつめた暁には
きみは時空に限定されない広大な浪に直面して
精神とは別の次元で奇妙な懐かしさをおぼえだす。
部屋よりも階段の多かった家として
いまとかつてに相わたり被災地がみえている。白木蓮も。
手の一歩だけが視覚をそうしてかえる。
風景は発狂している。